親戚をたらい回しにされた
それが小学校1,2年生の時
両親と住んでた地域にキリスト教の教会があって、
そこで孤児院みたいなこともしてた
ちなみに俺は無宗教で、特定の神を
信仰してるとかはない
俺はその当時からかなりのコミュ障で、人と目を合わせるのが苦手だった
最初に親戚と挨拶に行った時も、牧師さんの顔を見れなくて、部屋の中を見渡してたんだが、部屋をのぞく一人の男の子と目が合ってしまった
外国人だなっていうのは、顔でわかった
その子はブラジル人で生まれは日本、国籍も日本だった
けど、お父さんが酒乱でお母さんが逃げて、その子も教会で預かられてたみたい
その子をグレイシーとする
そんなに友達が多くなかった俺だけど、グレイシーとは一緒に暮らす中でいつのまにか仲良くなっていった
お父さんがブラジル人
その教会は1階の一部が教会であとは一家の生活空間だった
牧師さんと奥さん、その娘さんが二人、そしてグレイシーと俺が住んでた
牧師さんはもう温厚を絵に描いたような人で、めったに怒ることはなかった
しかもギターやドラム、ピアノなんかも出来てかっこよかった
奥さんは滅茶苦茶ハキハキ喋る人で、すごくポジティブだった
娘さん二人は俺やグレイシーよりも随分年上で、俺とグレイシーが小3だった当時、二人は中学生だった
グレイシーは3年生にしてその学校で一番有名ないたずらっ子だった
おかげで一緒に登校したり、休み時間に遊んだりしてた俺もすぐ覚えられた
友達を作るのが苦手な俺だったけど、必然的に話さなきゃいけない状況になることが多くて、いつのまにか友達も増えてた
今思うと、この時できた友達が今までの人生で一番多かったかな
親のいない俺やグレイシーの授業参観やら学校行事は、牧師さんや奥さんが見に来てくれた
運動神経のいいグレイシーは運動会でヒーローだったけど、学校祭に出す絵はほとんど俺が描いたようなもんだった
グレイシーはその小学校でガキ大将ポジションだった
体も大きくて、中学生と喧嘩したり理不尽な先生と取っ組み合いしたり
でも、正義感のあるやつで弱いものイジメは絶対にしなかった
俺はグレイシーにくっついて行動してたコバンザメだった
中学に入学した時点で、グレイシーは有名人だった
主にヤンキーな方々に
入学早々喧嘩に明け暮れていた
俺はというと、その頃好きな人にこっぴどく振られて傷心し、慰めてくれた牧師さん家の次女のことが好きになっていた
でも次女さんには彼氏がいたし、悶々と恋の悩みに暮れていた
この頃が、今思い返せばなんだかんだ一番平和だったなあと思う
他にも、毎日のようになにかしらで信者の方が来てたけど、やっぱり日曜日には大勢の人が来てた
俺やグレイシーも、小学生までは出て後ろの方で居眠りしたり、隠れてゲームしてるのが見つかって奥さんにこっぴどく叱られたこともあった
俺やグレイシーに対しては、人生のお勉強だってことだった
長女さんや次女さんは、真面目に牧師さんの話しを聞いてた
中学生になってから、グレイシーが日曜礼拝にでなくなった
外出したり、部屋に篭ってたり
俺とグレイシーは同じ部屋だったので「今日はどうする?」「行かねえ」みたいな会話はしてた
牧師さんは無理強いすることはなくて、ふつうに接してた
まあ信者ではないし、出なくても別にとやかく言われることはないんだけど、なんだか今までよくしてくれた牧師さんや奥さんに悪い気がした
奥さんは最初、「体調が悪いのかい?」と心配してくれてたけど、だんだん出ないのが普通な雰囲気になっていった
長女さんが県外の大学に進学して引っ越していき、次女さんも大学進学・・・のはずだったんだが、志望校に落ちてしまい浪人することになった
本人は「これは試練だから」と気丈にしてたけど、俺は頑張ってた次女さんを見てただけに、こっそり泣いてしまった
中3になると、暴走族同士の喧嘩に参加したりしてると噂に聞いた
学校にも来なくなった
俺は先生からグレイシーの様子を聞かれたりした
それから、今までグレイシーがいて俺をいじめられなかった奴らがここぞとばかりに嫌がらせをしてきた
もとから、痩せて背も小さいくせに変に頑固だったんだけど、それがグレイシーと一緒にいて調子に乗ってると思われてたようだった
俺の唯一の自慢だった成績も落ちていった
だんだん学校に行きたくなくなった
でも、引きこもることもできなかった
どこかで、ここは自分の家じゃないって気持ちがあったんだと思う
だから、学校に行く振りして制服を途中で脱いで私服になって、ブックオフとかで時間潰してた
ある夜にグレイシーに「お前も学校行ってないの?」と聞かれて「うん」とだけ答えたら
「そっか」と出かけて行った
「学校に行きたくない?」と牧師さんに聞かれて、素直に「はい」って答えた
話しの上手い牧師さんで、その話に感動することもあったけど、今はなんだか、上手いこと丸め込まれて学校に行かされるんじゃないかって思ってしまった
俯いてたら、牧師さんが「ピアノ、弾かない?」と立ち上がった
きょとんとしたけど、その後は本当に二人でピアノを弾いたし、次の日もその次の日もそうだった
浪人中の次女さんも一緒になって歌ったりすることもあった
いつのまにか、朝の3時間は人が来ないかぎり音楽の時間だった
その後は、奥さんの手伝いをしたり、次女さんと一緒に勉強をしたりだった
グレイシーは2日に一回くらい帰ってきてた
グレイシーが学校に行かなくなった頃、俺が「ちゃんと学校来いよ!」って言ったのに、そんな俺が不登校になって、グレイシーは大爆笑のあと何故か「ごめんな」って言った
別に大爆笑は嫌じゃなくて、むしろスカッとしたし、グレイシーのせいで不登校になったわけじゃなかったけど、何故だかそのごめんねに救われた気がした
その日はひさしぶりに二人で長いこと話したし、ひさしぶりに一緒にゲームしたりテレビ見たりした
だんだんグレイシーは毎日家に帰ってくるようになって、一緒に勉強したりもした
おかげで、かは知らないけど俺もグレイシーも高校に合格した
底辺、というやつだったけど、俺に嫌がらせしてた奴らは行かないみたいだったし、新しくやり直そうと思ってた
次女さんは今度こそ志望校に合格した
小学校の頃からの友達何人かと、卒業のお祝いでガストに行ったらそこに嫌がらせしてきた奴らもいて、一瞬吐き気がした
そいつらは変なニヤニヤ笑いをしてたけど、グレイシー見て黙って去っていった
なんだかその行動が、「俺がグレイシーを盾にして威張ってる」っていうそいつらの言ってることが本当なんじゃって思わせた
高校に入学してからは、グレイシーと別行動をとることにした
底辺だけにヤンキーもいっぱいいたけど、絡まれてもグレイシーに迷惑はかけないつもりだった
1年生の間は奇跡的に何もなかった
2年生になったばかりのある日、ものの見事に3年生のヤンキー3人に絡まれた
体育の終わりで一人で教室に戻ってたらいきなり紙パックのジュースを投げつけられた
睨んだら、訳のわからないことを喚きながら飛びかかられてしこたま蹴られた
蹴られながら「グレイシー来るな、グレイシー助けに来るな」ってずっと思ってた
助けに来てくれたのは体育の先生で、結果助けられたのは変わらなかったのに、グレイシーの皮をかぶった俺じゃないことが証明されたような気がした
その日の夜、グレイシーには「俺がやってやる」って言われたけど、「余計なことするな」って返した
そんな自分に酔ってた
俺がその場に入ると、別の話題に逸らされているような気がした
気になって気になって仕方なかったある日、俺が宿題を終わらせて下に降りると巨大な黒人が玄関にいた
グレイシーの父親だった
牧師さんとグレイシー父、グレイシーは何事か一晩中話してた
次の日、目が覚めたらグレイシーが俺の俺の部屋の床に寝てた
「俺、ブラジル帰ることになった」
グレイシーの父親を見たときに、なんとなくそんなこともあるだろうとは思ってたから、「そうなんだ」とだけ返した
グレイシーは「まああと2ヶ月くらいあるけどな」って笑ってた
高校ではグレイシーはそこそこモテてたし、ブラジルに帰る前にっていうことだったのか知らんが急に告白ラッシュを浴びてた
その頃俺は、例のヤンキー3人+その仲間たちにカツアゲやらなんやらのラッシュを受けてた
頑なに金は出さないし、ボコボコにされるクセに言い返す俺が面白くなかったんだろうな
ある日の下校中に拉致られた
廃工場みたいな場所に連れて行かれて、10人以上のヤンキーがいた
一際偉そうにしてる奴は、実はヤクザで逆らったらひどい目にあうぞといったような内容を喚かれた
一瞬揺らいだ
ここで謝っちゃはないと、グレイシーはブラジルに帰るし自分を守ってくれる人はいなくなる
でも、同時になんだか「帰ってきたドラえもん」ののび太のシーンを思い出してた
うわぁぁぁぁって叫びながらそのヤクザってやつに飛びかかったことは覚えてるんだが、いつの間にか引き倒されてボコボコにされた
で気絶したんだと思う
起きたら病院だった
牧師さんとグレイシーがいた
俺は二人ともに居場所は知らせてなかったから、誰か通りがかった人が通報してくれたんだと思う
教会に帰って、部屋にもどってすぐに、グレイシーが「仕返しに行こう」と言い出した
これが、「仕返しに行ってくる」だったら、俺は止めただろうしそんな気持ちにもならなかったと思う
でも、「行こう」って言われたのがなんだか良かった
「汝の敵を許せって、俺たちには無理だよなw」と二人して笑いあった
その日から俺はグレイシーと一緒に鍛え始めた
どうやら俺はチビでひょろい奴だったものの、鍛えれば筋肉が付きやすい体質だったらしい
奥さんに言って、鶏肉やら大豆やら筋肉が付きやすいものをリクエストして食べたり、グレイシーに闘いのコツを教わったりした
牧師さんや奥さんは、何か言いたそうな顔してたけど何も言わなかった
グレイシーがブラジルに帰る1週間前、復讐決行となった
グレイシーが、先に人数を集めたのはあっちだからと、どこかに電話をかけ20人ほど呼び出した
「これはあくまでも俺の復讐だから、向こうが大人数で襲って来るまで手をださないように」ってことになった
俺はヤンキー3人と仲間たちに、先日のヤクザも連れて来ていいから俺と喧嘩をしろと啖呵を切りに行った
そいつらは何故か、「うるせえよ、お前キモイからどっかいけ」と乗ってこない
あとからわかったが、先日のヤクザはヤクザではなく、それも「俺がその人の悪口を言いふらしているから」という理由で呼び出したそうで
それが嘘だとバレて気まずい感じだったらしい
しまいには「お前、なんかガタイよくなったなw きめえw筋トレでもしてんの?」とか向こうから話しかけてくるようになって、アホらしくなって復讐はやめた
実際、自信もついたし、俺を目の敵にしてた奴らがこの調子だから、おそらく問題ないと思ったんだろう
グレイシーはあっさり旅立っていった
残された俺は、牧師さんと奥さんとの3人暮らしになった
寂しいと思うまでに時間が掛かり、それがなくなるまでにもっと時間がかかった
俺は牧師さんにお願いしてピアノを再開した
たまに日曜礼拝の時に弾いたりもした
そんなこんなであっという間に大学受験の話題が出るような時期になった
俺は大学は行くつもりがなかった
これまで牧師さんや奥さんに散々迷惑をかけてるし、次女さんも大学に行かれてる
自分まで学費を出してもらうわけにはいかないし、正直進学してまでやりたいことがなかった
でも、教会からは出ていこうと思ってた
牧師さんや奥さんには進学の意思がないことと、これからは一人暮らしでやっていこうと思うことを伝えた
二人には「本当に大学は行かなくていいのか? 学費の心配なら大丈夫だよ」と言われた
「いつでも帰って来なさい」と言われて「ピアノ弾きにきます」と言いながら号泣してしまった
いつだったか、ここが自分の家じゃないとか思ったこともあったけど、そんなこともなかったなと思った
紛れもなく、ここは帰れる場所で帰るべき場所で、家なんだなって思った
それから3年間、平日働いて週末はピアノ弾きに教会に行ってって暮らしが続いた
その間に長女さんはご結婚されたし、次女さんは洗礼を受けて正式に信者さんになった
牧師さんや奥さんは変わりなく、俺は車の免許取って少しだけど職場で友達が出来た
グレイシーからは一度だけパソコンにメールが来て、明らかにマフィアかギャングだろうって連中と写ってる写真が添付されてた
俺の職場に帽子をかぶったいかつい輩が現れた
下を向いたまま俺ににじり寄ってきて、「こんな危なそうな奴に俺なにかしたっけな?」と冷や汗かいた
そしたら帽子を取りながら「おーーーっす! 久しぶり!」とハグされた
グレイシーだった
髭は生えてるし短髪になったし、ガタイはますます良くなってるしでピンと来るまでに時間がかかった
その日は仕事終わって二人で教会に行った
道すがら、いろいろと話した
グレイシーのお父さんは向こうに行ってすぐに亡くなったらしい
それで、すぐにこっちに戻ってこようと思ったそうだがお金が無く、せっせと働いて稼いで船で帰ってきたそうだ
他にも向こうの教会やらクリスチャンの人たちにお世話になったことも言ってた
話してて、なんだかグレイシーは大人びたように思った
落ち着いたし、なにせまず歩き方から変わった
牧師さんも奥さんも大喜びでグレイシーを迎えた
長女さん御夫婦も、次女さんも来て、その日は大いに盛り上がった
グレイシーはめちゃくちゃに酒が強くて俺は潰されてしまった
朝目が覚めたら、懐かしいあの部屋で俺とグレイシー二人して寝ていた
起きたグレイシーと一緒に、「やっぱりここは実家なんだね」って頷きあった
その後、グレイシーからさらに驚きのサプライズが告げられた
グレイシーは結婚していた
奥さんも日本とブラジルのハーフで、先に日本に来ていたらしい、というかそもそもは日本に住んでいたらしい
お会いしたら、ものすごく綺麗な人でビビりまくった
なんだか無性に悔しくなったので、その足で次女さんのもとに行き告白した
あっけなくOKされて拍子抜けた
で、あっという間に結婚してしまった
まあ交際期間は短いが、一緒にいた時間はそうとうなものだし、いいかなと
俺自身は、その人が信じて幸せになれるものなら尊重するっていうスタンスだから、妻さんが幸せならそれでいい
俺は小さい頃に親を亡くしたけど、実の親のように接してくれた牧師さんや奥さんがいた
優しいお姉さんだった長女さんや、今や妻になったけど相変わらず可愛くてたまらない次女さんがいた
そしてグレイシーがいた
色々あったけど割と幸せな人生だ
これからも、なんだかんだで幸せに生きていけるような気がする
あのグレイシーが赤ちゃん言葉を使ってあやしてる光景も、それを見て笑うグレイシーの奥さんも幸せそうだった
そして今日、妻さんが妊娠してることがわかった
報告したら牧師さんも奥さんも大喜びだった
もう少ししたら、また教会に引っ越す準備をしないといけない
ありきたりな自分語りになってしまった、ごめんなさい
嬉しくて、嬉しくて、今までのことがぶわっと思い出してきて
ただ、過去のことまで含めて話せる人は今の知り合いにはそんなにいなくて
俺のこと、ぜんぜん知らない人たちに聞いて欲しかった
それから、俺よりももっと辛くて大変な人生を送ってる人だっていると思うけど
少しでも勇気を与えられたらなと思う
笑ってくれてもいいし、蔑んでくれてもいい それで幸せになれるんなら俺は尊重する
どんな形であっても、この世に幸せな人が一人でも増えることを願う
終わり
次女さんに告白してあっさり結婚の辺りで、じんわり涙が出たw
幸せな家庭を築いてください
>>1幸せにな!
幸福なことばかりじゃないけど
ちゃんと今の自分を幸せだって言える1は凄いよ
おめでと。
えぇ話しや…。